2023年8月6日に木曽・柿其川を遡行中に、一歩誤れば重大な水難事故となりえたインシデントが発生したため、記録として残したい。
【場所】箱淵(ゴルジュ;全長20m、川幅5~6m程度、水流:淵の下流側は中程度、上流側はかなり強い)。写真は上流側から見たC。
【経過】
1)最初、私(ライフジャケット・ウエットスーツ無し)が泳ぎ出すが、淵の長さ、水流の強さから「ロープを付けた方が良い」と判断し、一旦引き返す。Yはライフジャケット、ウエットスーツを装着していたので浮力があり、泳力も十分であったことからロープ(30mダブル1本)を託し、Yが淵を抜けたところでロープをフィックス。
2)後端には泳力に自信がないCがロープを結び、セカンド(中央)に私が入ることに。あまり深くは考えずに、ビレイループから伸ばした120cmのシュリンゲ・環付きをロープにクリップし泳ぎ始める。
3)ほぼ中央まで泳いだところで、ロープが右足に絡んだのを感じた。しかしこの時、「自分がトップを行っている」と錯覚してしまい「泳ぎ切っちゃえばいいや」とスイムを継続。さらに進んだところで左足にもロープが絡まったのを感じた瞬間、前に進まなくなる(以下のイラストの状態)。
フォロー(後続)Cから延びているロープがいっぱいとなり、また両足にロープが絡んだことから前に進まなくなったのだ。かといって、トップ(先頭)Yからのロープもいっぱいなので、引き返すこともできない。水深は深く、足が着かない状態で、水流もそこそこあった。この時点になって、初めて危険な状態にあることに気付く。
3)立ち泳ぎをしながらゴルジュの壁面を探ると、わずか指が3本掛かる、深さ2cm程度のカチがあった。必死で指を立て、右足を浮かせて見ると、シュリンゲとロープが幾重にも複雑に絡み合っていた。息継ぎをしながら、川に5、6回身を沈め、なんとか環付きを解除。この時は、反射的に右足(川下側)から解除に入ったが、これが正解(もし先に左足を解除していたら水流に流されて体が反転し、右足とシュリンゲが絡まったまま動きが取れず「お陀仏」だったと思う)
4)続いて、左足。見れば、ロープが足首を中心に4重ほど、きつく絡みついていた。水流で体が流され、ロープにテンションが掛かる。徐々に体温が奪われていき、感覚が鈍くなってくる。カチで耐え、右足で水流を蹴りながら、左足を浮かせてロープ解除を試みる。何度かトライするも、水流で上半身が流されているため水中で手探りで解くしかないが、なかなかほどけない。カチを持ち直すなどレストしつつ、解除を試みる。さらに何度か体が沈んだ後に、左足の解除にも成功。
5)フォローに「ロープを張って!」と伝え、ごぼうで淵を抜ける。
【反省点】
・流されても致命的ではない状況にも関わらずシュリンゲでロープにクリップ。さらにフォローにロープを張る指示を出さず、ロープがたるんだ状態で泳ぎ始めたこと。水流が複雑でシュリンゲがたるんだロープを引き上げていた可能性もある。いずれにせよ、ロープに「たるみ」が生じ、平泳ぎする足が絡みついたと推測。
・クライミングロープのため水に沈み、また暗めの色で視認性も低かった。相応の水量、水流であり、心理的にロープから離れてしまうリスクを懸念したことが、ロープにシュリンゲを連結した一因であった。また、上から見るとYは対岸にいたことから、ロープトラバースのイメージが湧いていたことも、安易にクリップした要因となった。
・ロープが足に絡んだと感じたときに、速やかにロープの絡みを解除しなかったこと。ただし、ゴルジュ内で掴める場所がなく、(今思えば謎だが)「泳ぎ切ってしまえばいいや」と思いスイムを継続してロープの絡みが増したこと。もしくは、異変を感じたときに、速やかに引き返す判断を行わなかったこと。
【すべきだったこと】
・ロープにシュリンゲをクリップするのであれば、ロープを張る指示を出す。そもそも、流されるリスクがないのであれば、シュリンゲでの連結は不要ではないか。
・足にロープが絡んだと感じた瞬間に、ロープ解除を試みるか(その時点であればシュリンゲも容易に解除できたか)、すぐに引き返すべきであった。
・泳ぎ主体の沢であればフローティングロープ(目立つ色である理由がわかった)やライフジャケットも併用すべきであった。
・(もし自分がトップであったなら)フィックスしたロープ沿いに泳ぎ返し、ロープの絡み解除を補助するか(水流が強いので相応の浮力がないと困難)。もしくは、ロープを解除する。ただし、フォロー(後続)に泳力がないと淵を抜けられなくなるし、万一、流したロープが岩に絡みついたらジ・エンドとなるので、最終手段か。
【幸いだったこと】
・ゴルジュの右壁(左岸)沿いに泳いでいたこと(川幅の中央にいて両足絡んでいたらアウトだったかも)。
・たまたま、目の前の岩壁に持てるカチがあったこと(これが無かったらロープを解除できず体温低下とともに溺れていたと思う)。
・テンションが掛かっていない川下側の足からロープを解除したこと。
・ザックからわずかに浮力が得られたため冷静を保て、パニックに陥らなかったこと(足が着かずパニックを起こしていたら脱出も救助も難しい状況にあったと思われる)。
遡行には慣れていたつもりでいたが、泳ぎを伴う遡行は経験が浅いこと、しっかりとした予備知識を習得することの必要性も実感した。以上。