槍ヶ岳・北鎌尾根 (初日)
2007年 09月 22日
日本第5位の高峰「槍ヶ岳(標高3,180m)」は、東西南北に伸びる大きな尾根に支えられている。18歳の夏、ワンゲルに入って最初の夏、白馬から上高地まで山中13泊14日の合宿途中で登ったのが最初だ。今でも、北側に伸びる荒涼なる尾根は印象に残っていて、「世の中にはこんなエライところを登ってくる人がいるんだなぁ」、「将来、日本を代表するこのクラシック・ルートに取り付くことができるだろうか」と感嘆したものだ
あれから17年。いつの日か、と思いを馳せ続けた北鎌に挑むチャンスが訪れた。二度とクライミングをすることはないと思っていた自分に、再度、その楽しさを教えてくれたShimizu師匠と共に。。。
前夜23時、松本で合流。漆黒の国道を走り、上高地の玄関口である沢渡駐車場へ。料金が1日単位(500円)なので、0時を少し回ったところで入場。同じような考えをした人たちが、続々と駐車場へ入ってくる。適当な場所を探し、テントを張る。これからの3日間、お世話になる師匠のゴアライト2人用だ。
コンビニで仕入れた「ビール」と「焼き鳥」で前祝い。山に持っていくワインをペットボトルに詰め、残りを2人の喉に流し込む。
久しぶりの「本ちゃん」、予想もつかない厳しい尾根道に思いを馳せるとなかなか寝付けない。と考えているうちに寝てしまった。。。
朝4時20分起床。今日は臨時で5時に始発が出るようだ。往復チケット1,800円を購入して乗車。
05:35。標高1,500mの上高地バスターミナル到着。肌を刺す冷気が心地よい。バックは焼岳。
05:00。荷をまとめて出発。河童橋から穂高連峰を見上げる。なんとこの週末、飯田山岳会からは5パーティ、8人が同じ北アルプスに入るという。
延々と続く梓川沿いの登山道を進む。「北鎌尾根・1泊2日」成功の可否(通常は2泊3日のルート)は「今日、どこまで行けるか」に関わってくるので、かなりのハイペースで黙々と進む。謎の「鈴少女」と抜きつ抜かれつ。お主、やるな。もしかしたら、山小屋のアルバイターかもしれない。写真は、明神を見上げたところ。
06:55に徳沢園、07:45に横尾を通過。ふと、槍ヶ岳が頭を覗かせた!!
09:00に槍沢ロッヂ着。庭の望遠鏡から槍ヶ岳が望めるらしいが、生憎、ガスに包まれてしまった。大休止して09:15に再出発。
20分ほど槍沢を遡ると、展望の良いキャンプ場に着く。右下に落ち込む尾根が「大曲」で、ここから右上の「東鎌尾根」へ登るのだ。
09:55、水俣乗越への分岐着。そのまま登り始める。
今回はテント1泊ということで、極力荷物を削減した。ロープは8mm20m、ガチャも最小限。寝袋は持たずにシュラフカバーで寝て、食糧も積極的にアルファ米を活用した。それでもやっぱり、一番重たいのは「登攀具」と「水」だなぁ。え?お酒も?
10:50、水俣乗越(標高2,480m)に到着。余裕の表情の師匠。上高地から既に標高差1,000mは登ってきた。ここから北鎌沢出合いまで660m下り、さらにまたコルまで650m登り返すのだ!!まじ??
左側が北鎌尾根で、ちょっとくぼんでいるところが今日の目標である「北鎌沢のコル」。はる~か下に見える河原まで一旦降りて、コルまで登りかえすのだ。。。先は長いので、5分だけ休憩して間ノ沢へ下っていく。
沢のツメはザレザレの急斜面。滑落が許されないので慎重に下る。少し下ると、北鎌尾根の全容が望めた。右端の大きなピークが「独標(P10)」である。
ザレザレ、ガレガレで、人も歩かないので岩が不安定な状態。下手に衝撃を加えると、岩雪崩が起きる危険すらある。オレの体よりも大きな石がカンタンに動いたりするから要注意。こんなのに飲み込まれたらひとたまりもないので、三点支持ですんごく慎重に下る。
水俣乗越を振り返ったところ。落石の危険地帯だし、登り返す気にはなれない。そう、我々はもはや引き返すことが困難な、深山の、携帯も役に立たない「下界と乖離したエリア」に立ち入ったのだ。もし事故が発生したら、ここを登り返すか、延々と貧乏沢を登るか、北鎌から槍を越える、しかないのだ。
1時間ほど下ると、傾斜も緩くなってきた。槍ヶ岳へ続く東鎌尾根を見上げる。あのスカイラインの向こうはものすごい数の登山者がいるが、こちら側には数えるほどしかいないのだ。
12:25、いよいよ「北鎌沢の出合い」(標高1,820m)まで降りてきた。今日の目的地は、あのコル(鞍部)だ。
ここで大変なことに気が付いた。干ばつのためか、沢が枯れているのだ!選択肢は2つ。「北鎌沢の水に期待し、このまま登る」か、「水を汲みに、来た道を引き返す」かだ。最悪のパターンを想定して、来た道を引き返すことにする。
15分ほど上り返すと、間ノ沢で水が地表に出ている場所まで戻ってきた。2人で5リットル分の水を汲み、これからの急な登りに備えて沢水をガブ飲み!
45分ものタイムロスで、13:10に再出発。すると、、、なんと北鎌沢は豊富な水に恵まれていたっ!!まぁ、こんなこともあるさ。ここまで来て、水がないことの方が大変だに。
途中、大阪から来たという4人組みと抜きつ抜かれつになる。そのメンバーの一人が7月に北鎌を登ったらしいが、北鎌沢のツメで深いヤブこぎ&ザレ登りになり、倍の4時間掛かったという。それが本当なら、日が沈む前にコルに到着できないではないかっ!?
慎重にルートを選んでいく。数多の記録では「2時間」と書いてあるのだから、しっかりルートを選べば大丈夫!?多くの記録に「右に、右に登る」とあったので忠実に従うが、支沢が一杯あって悩む。写真は、コル直下の急なツメ。かなりの傾斜で、ほとんど岩登り状態。滑落は許されない。岩も不安定で、一手、一歩を慎重に。三点支持はもちろんだが、岩への加重もじんわりと。
15:00に「北鎌沢・右俣のコル」(標高2,470m)に到着!2人用と4人用を張れば一杯の広さだが、平らなのがウレシイ。近くに、遭難碑があった。古の魂は、槍を登っていっただろうか。
コル直下を見下ろす。堕ちたらひとたまりもない。
遅れること30分ほどで、大阪組も到着!オネエサンも頑張った!!しばし、言葉を交わす。彼らは貧乏沢から来たらしい。もう30分ほど歩いて、別の場所にテントを張るとのこと。
これがコルのテン場。奥が登ってきた北鎌沢で、手前側はわずか50cmほどで千丈沢へ向かって絶壁となっている。地震が来たら、コルなんて吹っ飛びそうだ。。。
やっぱ、コレだねぇ~。師匠は「ウィスキー&ハチミツ&レモン」。お湯で割ると、疲れが吹っ飛ぶ感じがして素晴らしいっ!ワタシは赤ワイン。二人でカンパ~イ!
アルファ米を炊いて、レトルトカレーを流し込む。普段買わないような贅沢なレトルトカレーで、具がたくさんでウレシクなった。昨晩もろくに寝ていないし、今日も10時間近い行程を歩いてきたので、すぐに眠気が襲ってきた。
いよいよ、明日。この17年間、夢見続けてきた「北鎌尾根」だ。思いを馳せつつ、シュラフカバーに入り込む。背中に当たる石が、妙にリアルであった。(18:30就寝) 【続く】