人気ブログランキング | 話題のタグを見る

【 Facebook、Twitter、mixi からご訪問の方】  最新の投稿を見るには、タイトル「旅鳥の独り言」をクリックしてみてください。


by kanechin
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

3年越しの北岳バットレス day2

 2013年8月4日(日)

 01:50起床。テントの入口を開けるときは、いつもどきどきする。ええい、と飛び出ると満天の星空で一安心。昨晩の喧騒でほとんど眠れず、眠い眼をこすりながら朝食を摂り、夜露で濡れたテントを撤収。

 03:05、白根御池発。
3年越しの北岳バットレス day2_b0050067_1831627.jpg

 二俣で登攀の準備を調え、幕営道具をデポ。03:55、再出発。D沢出合いに04:35。「あれ?鳳凰三山の上空が白み始めた!?」、そうだ、今は夏なので日の出が早いのだ。
3年越しの北岳バットレス day2_b0050067_183332.jpg

 D沢を登りはじめたところでヘッドランプを解除。浮石が多いD沢を慎重に詰める。
3年越しの北岳バットレス day2_b0050067_1834098.jpg

 05:10、dガリー大滝基部。取り付きまで雪渓が残っているが、第5尾根支稜へ続く道は雪が切れていた。アイゼン、ピッケルも持参したが、不要なようだ。Dガリー大滝へはシュルンドに降りるのにピッケル必要?
3年越しの北岳バットレス day2_b0050067_18412216.jpg

 かなり彷徨ってみたものの、第5尾根支稜がよくわからない。どうやら、目の前の傾斜の緩いスラブが第5尾根支稜なのか?シュルンドに堕ちないよう気をつけながらトラバースし、シュリンゲが垂れる取り付きへ。見た目はカンタンそうだしⅢ級とのことなので、時間短縮でアプローチシューズのまま進むことに。

 05:40、登攀開始。1P目はワタシ。実際に登りはじめると、見た目よりも急。ホールド、スタンスも少し脆そうな気がして慎重に進む。ハーケンが見つからず、30mのうち2、3個しかランナーが取れなかった。写真は1P目をフォローする2人。
3年越しの北岳バットレス day2_b0050067_18481493.jpg

 2P目はsono。写真のカンテまでがちょっと悪いが、残置は豊富。そこからは、ぐいぐいカンテを登れ、50mいっぱいロープを伸ばして解除のコールが。
3年越しの北岳バットレス day2_b0050067_18493258.jpg

 緩傾斜帯に入る。見上げると、昨日お話した「お茶の時間」の方々が、ピラミッドフェースに取り付いているのが望めた。それにしても、いい天気!暑くもなく、快適である。
3年越しの北岳バットレス day2_b0050067_18505679.jpg

 よく写真で見かける「下部フランケ」(Ⅴ-、5P)の取り付き。うーん、カッコいい!写真右側のルンゼが継続3P目(下部フランケ1P目、V-・50m)。
3年越しの北岳バットレス day2_b0050067_18594155.jpg

 06:30、下部フランケ登攀開始。お願いします。
3年越しの北岳バットレス day2_b0050067_1911550.jpg

 Ⅴ-と書いてあるのでビビっていたが、カムの効きもよく、ルートさえ間違えなければさほど難しくはない。
3年越しの北岳バットレス day2_b0050067_1921354.jpg

 2人を引き上げ、継続4P目(Ⅳ+、50m)はsono。青空に聳える緑が映える壁、素敵!写真のフェースはピトンが連打されているらしいが、厳しそうだ。見た目は寝ているが、実際に行ってみるとかなりの傾斜であった。ピトン連打のフェースからクサビハング、凹角を越えてピッチを切る。
3年越しの北岳バットレス day2_b0050067_1944495.jpg

 フォローするfukuchan。
3年越しの北岳バットレス day2_b0050067_1952236.jpg

 フォローして納得。逆層スラブとなっており、スタンスがプアでかなり厳しい。体感は継続3P目がⅣで、4P目はフリーだと5.10cくらいに感じた。

 続く5P目(Ⅳ+)はワタシ。V字凹角内の内面登攀ののち、ハングを左に越える。リングボルトのアンカーがあったがロープがまだ10mほどあると言うので、さらに凹角を登る。滲み出しでクラック内が濡れておりいやらしい。あらゆるムーヴを駆使し、左のカンテを超える。岩は硬いので快適!ピッチの切り所を誤ったのか終了点がなかったので、リングボルトとキャメロット#3で流動支点を構築。いよいよ、憧れのDガリー奥壁が近づいてきた!
 
 08:20、フォローの確保が準備できたところで、異変に気付く。ご本人の了承が得られたので、記録として残したい。どうやらfukuchanの体調が急変し、うなだれたまま動けないとのこと。fukuchan側のロープを張り、荷物を降ろしてもらう。休憩して、しばらく様子を見ることに。

 判断のときだ。「この先はまだ7、8Pの未知のルートが続き、登れば登るほど退却が困難になる」「意識はあるようなので、救援を呼ぶほどではない」「ヘリでピックアップしてもらうにも、フランケ下部までは下ろさないと」「いずれにせよ、下るしかない」「動けないようなら、カウンターラペルでなんとか降ろせるなぁ」など、冷静に考えられた。加えて、こうなるとは全く予想していなかったが、登りながらずっと下降(退避)経路を確認していた自分にも気付いた。ひとえに、先日のセルフレスキュー研究会のお陰だと思う。

 しかし、ここで大変なことに気付く。自分はハンマー&ハーケンを持っていない(後続のsonoが持っている)し、捨て縄も60cmクラスのを1本持っているだけ(240とか長いのも数本持っていたが、二俣に置いてきた)。目の前には、サビサビのリングボルトが1本あるだけ。

 リング1本での下降はカンベン、と周囲を探すと、残置ハーケンが。捨て縄では長さが足らなかったので120cmのシュリンゲと捨てビナで下降支点を構築。貧乏性なので、一番傷んでいるシュリンゲとビナをじっくり選んで構築。よく考えたら、命を預けるだけに一番良いものを使用するべきだった!?ロープを解除してもらい、ダブルで45mほどの下降を、09:00に開始。こんな美しいルートの中に残置して申し訳ないが、お許しください。

 ピラミッドフェースを抜けた「お茶の時間」のKさんが心配して「お手伝いしましょうか」と声を掛けてくださる、ありがたい。謝意と退却する旨を伝え、下降に入る。折りしも、後続パーティが4P目に入っており、トップに事情を説明して横を下降させていただく。
3年越しの北岳バットレス day2_b0050067_1940366.jpg

 自力で懸垂下降できるまで復活したのが幸いで、下降路を確保しながら4P目を降りる。
3年越しの北岳バットレス day2_b0050067_19404722.jpg

 さらに3P目も下降し下部フランケの取り付きへ下ると、少しほっとした。と思ったら、さっきまでの好天がウソのようにガスってきた。そうだ、これが北岳だ。
3年越しの北岳バットレス day2_b0050067_19465767.jpg

 気温の低下を感じ、今にも雨が降ってきそうであったので、第5尾根支稜(なのか?)の懸垂に入る。途中、屈曲するところが手間であったが、3Pで取り付きまで下ることができた。この頃から霧雨が舞い始めた。あのまま登っていたら、核心のスラブで悲鳴をあげるところだった!?
3年越しの北岳バットレス day2_b0050067_19482667.jpg

 岩もロープも雨で濡れて下降に手間取ったものの、11:35に下部岩壁取り付き。
3年越しの北岳バットレス day2_b0050067_19502543.jpg

 あとは岩雪崩に気を付けながらD沢を下り、夏道とD沢との出合いに12:40着、ほっ。写真がD沢の目印となる大岩。
3年越しの北岳バットレス day2_b0050067_19512484.jpg

 二俣に13:30着。幕営道具やギアをsonoと分配したところで急に睡魔が襲ってきて、休憩と言う名目で寝入ってしまった。はっ、と起こされたのが14:15頃?14:25に下山開始し、アレだけ賑やかだったのがウソみたいな、静かな広河原に15:35着。
3年越しの北岳バットレス day2_b0050067_1957331.jpg

 高度を下げたらfukuchanの体調もすっかり良くなり、無事に下山できた。よかった、よかった。

 今回、色々と反省した。
 アルパインのトップを務めるのにも関わらず「ハンマーとハーケン」は後続に持たせたままであった(たまたま残置ハーケンがあったから良かったけれど、無ければカムを残置するところであった)。また、「捨て縄」も短めのを1本持っていただけ(結局、自分のも含めて撤退に消費した捨て縄は5本)であった。ルートを抜けるのが当たり前と過信し過ぎて、退却の準備なんてほとんど成っていなかった。考えれば、天候の急変や落石・滑落などによる負傷、時間切れ、ルートミスや体調不良など、途中退却する可能性なんて色々とあるはずだ。とどのつまり、スポーツマルチ気分から抜けきれていない、山をなめた自分がいた。以後、より気をつけます。

 体調不良なんて、誰にでもある。かくいうワタシも、前に錫杖・左方カンテで動けなくなったこともあったなぁ。でも、こういったことが起こりうるといった意識を持つことって大切だな、と改めて思えた、貴重な経験であった。

 あぁ、それにしても、またもや奥壁にフラれてしまった。それでも、青空の下であの赤いスラブを駆け抜けるのが夢でもあるし、今回の退却はタイミングとしてはとてもよかったと思う。またの機会を楽しみに、これからも精進を続けたいな。また一緒に行こう!
by kanechins | 2013-08-04 20:11 | 「アルパイン」の独り言