雪崩講習会 (day 2)
2011年 01月 23日
午前5時30分起床。外はまだ真っ暗で、大町の夜景が美しい。朝食を摂り、講習のアウトラインを確認。
今日は実際に雪の尾根において、班に分かれての講習。鹿島槍のリフトを2本乗り継ぎ黒沢尾根へ入るはずが、2本目のリフトが動かない^^;。仕方なく、樹林帯の中の斜面(標高1,300m)を選んでピットを掘る。堀り方は、観察面とテスト面に日光が当たらない場所を選び、かなり手前から掘っていく。
プローブを立ててメジャー代わりにする。積雪は170cm。青インクをスプレーするが、顕著な弱層は確認できなかった。
次に、雪面に食い込む拳と指の本数で5cmごとに触診を行い記録。深さ35cmの場所までスカスカの新雪で、そこから下に固い層がある。新雪深は全積雪深に対し21%。標高や降雪条件は異なるにしても、なからグラフから算出した数値に合うかな??
次にデジタル温度計を用いて、内部の温度を10cmごとに計測。雪は断熱効果が高いため、積雪当時の気温がメモリーされるとか。うーん、なんか感慨深いなー。雪面から深さ4~50cm位まで雪温が-5℃くらいまで下がり、そこからは逆に地表面の+0.5℃に向かって温度勾配が見られた。雪の中に温度差が生じると、昇華と凝結により弱層が生まれることがある。
次に、各層の雪の結晶をルーペで確認。樹林帯内で風がないこともあって、新雪は美しい六角形の結晶が。固くなった層からは結晶同士のボンド(結合)が融解や焼結により締まっているのも確認できた。Minoring、T女史も熱心に観察^^。
続いて、ハンドテスト。研修なので、時間をかけて観察層の隣に雪柱を掘り出す。
上部から静かに手で押すと、さーっと深さ35cmの部分でカンタンに切れた。やはり弱層になっていたようだ。
切れた部分の結晶をルーぺで確認。固い層は結合が強いが、切れた部分はキレイな結晶のまま残っている状態。お互いの結合が弱いということだ。
そこから下は、どれだけ押しても層にズレは生じず、柱が倒れた。表層35cmの部分に不安定な層があることが確認できたため、地形的にヤバい場所を通過するときは迂回したり、1人づつ通過するなどの対応が求められるということだ。
雪洞の堀り方を実演しながら、掘った穴にM先生が入って上からプロービング。なるほど、人体のぷにぷに感を感じることができる。試しにザックでもやってみたが、なんとなーく差がわかるような気がした。
リフトが動き始めたので上部へ上がり、さらに10分ほど登ると黒沢尾根の小ピーク(標高1,546m)へ。昼食を摂り、4人づつ分かれての捜索訓練。6人で斜面を歩行中に表層雪崩が発生してリーダーと新人の2人が巻き込まれた設定。
雪崩発生地点、遺留物、デブリ末端を設定していざ。
方法は各論あるようだが、今回の反省を反映した、自分なりに理解した「全体の流れ」を備忘のために記す。「こうしたら良い」などご意見があったら、ぜひコメントをいただきたい。
(1)リーダー不在なので、一番統率できる人が各メンバーの役割を指示。2次雪崩の監視役を決め、発生時に逃げる方向を確認する。
(2)周囲の安全を確認し、静かにかつスピーディーに現場へ。
(3)発生地点に到達したらビーコンを受信状態にする。ルンゼの場合には1人が飛んで末端から上がり、2人が上から探すと探索距離が短くなり早い。広いスラブ面の場合は2人が雪崩の両端付近を下降しながら捜索するか、その間をもう1人が入る。
(4)遺留物を発見したら大きな声でコールし位置を伝達。遺留物を持ち上げ確認。(そのまま遭難者が埋まっている場合もある)。
(5)雪崩発生地点と遺留物を結ぶ直線上、流れが変わる場所、デブリ付近に埋没していることが多いので、それを考えながら探索を続ける。
(6)二次雪崩が発生したら、監視役は速やかに笛で合図。解除も笛で行う。
(7)電波を捕捉したらコールする。それぞれの位置や状況によるが、3人が一つの電波に執着せず、もう一人の埋没者を捜索するか、プローブを出すなど状況に応じて行動する。ザックは安全地帯に木やピッケルで固定するか、背負って行動する(二次雪崩で流失させないため)。
(8)埋没が浅いと想定されたり、トリプルアンテナの場合にはピンポイント捜索を1人が続け、他のメンバーはスコップを準備する。埋没が深かったりシングルアンテナの場合には2mくらいを切ったらプロービングに変えるのも良い。
(9)プローブがヒットしたら、プローブは抜かずに斜面下側の手前から広く掘り進む。
(10)発見したら、まず呼吸を確保するため頭の方面をやさしく速やかに掘り出す。遭難者のビーコンを切り、全身を掘り出したらマットを乗せたツエルトに包むなどして保温し、安全地帯へ搬送する。状況に応じて、手が空いている人がもう1人の捜索に入る。
(11)意識を確認し、必要に応じてCPRを施す。湯たんぽを作れるなら、脇の下や首の付け根に入れる。
(12)必要に応じて救援要請を行う。
(13)安定したら、もう1人の捜索に入る。以下、同様。
雪崩の捜索訓練は今までに何度も行っているが、やっぱり焦ってしまうためか思ったとおりに動けない。訓練でこれなら、いざとなったら推して知るべし。反復練習だけが自信と落ち着きを得られる最良の方法と思われる。
たまたま、うちらのメンバーは慣れた人ばかりで、雪崩発生から2人を掘り出し安全地帯に搬送するまで8分強でできた。しかし。現実には現場到着時間も加わり、もっと深い埋没深度であろうから、救出までははるか長い時間を要するであろう。やはり、雪崩に巻き込まれてはいけないのだ。
反省で多かったのは、プローブの組み立てがうまく行かないこと。こればかりはグローブを付けて練習をし、慣れるしかないであろう。
最後に、遭難者をヘリが接近できる場所まで搬出する訓練。マットやテント、ザックやツエルトなどあるものを使ってソリを作る。荷物も一緒にくるんでしまうのもOK。
登りは頭を上に、下りは逆にすると、意識のある遭難者は怖くない。先導する人が少し幅広にラッセルすると搬送しやすい。
斜面のトラバースは、足場も狭くほんとに苦労する。大仕事だ。ゲレンデトップまでの10分ほどの距離を搬送したが、やはりカンタンではない。やはり、雪崩に巻き込まれてはいけないのだ。
そんなこんなで、あっという間に講習は終了^^。
今までいくつかの雪崩講習会に参加させてもらったが、本当に内容が濃い研修であった。さすが、講師講習会^^;。丸2日かけてみっちり受講できたのは、本当にありがたい経験となり、山岳会などの仲間にも情報を伝達し、雪崩に対する意識向上にわずかながらでもつなげられればと願う。
ほんとに、雪崩に巻き込まれてはいけない。
素晴らしい機会を与えてくれた山岳総合センターK木さん、講師の東さんをはじめ、共に過ごした受講生のみなさま、ありがとうございました^^。雪崩事故が少しでもなくなりますように。。。