人気ブログランキング | 話題のタグを見る

【 Facebook、Twitter、mixi からご訪問の方】  最新の投稿を見るには、タイトル「旅鳥の独り言」をクリックしてみてください。


by kanechin
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

雪崩講習会 (day 1)

 2011年1月22日(土)

 この週末は、山岳総合センター主催の講師講習会(指導者のための講習会)に参加。講師には、山岳スキーヤーでもある国立登山研究所の東先生。県内外から60名近い山ヤが集結し、講義室には熱い雰囲気が^^。
 講師講習会の趣旨のもと、少しでも多くの人に伝えて欲しいとのことなので、長くなるが少し詳細に書きたい。

 まず、全体を通じての感想。秋のレスキュー講習会の時にも思ったが、雪崩の場合も「セルフレスキューがいかに大変か=雪崩に巻き込まれてはいけない」ということである。
 「雪崩に巻き込まれる=まず助からないという現実」を認識し、捜索訓練は「運が良ければ救助できるかもしれない」ために行っているということ。つまりは、雪崩は起こってから対応するものではなく、「雪崩に巻き込まれないための判断と行動をとることが最重要」であるということ。

 そのために、まずは2時間に渡る机上講習から。事前学習により、先生の話もすーっと耳に入ってくる。雪崩については幾つか本が出版されているので基本的な内容は本に譲るとして、印象に残ったことを。

(1)山に入るのなら「シーズンの始めから」の気象や積雪状況を確認する。
・雪崩は「ある時点」の事象だけで判断できるものではなく、それまでの積雪や気温推移などの状況から現在の山の状況を推測する訓練が必要。考え、そして実証することが「経験」と「カン」につながり、本を読んだだけでは習得できない。
・情報収集に使えるHP
 「気象庁」 http://www.jma.go.jp
 「専門天気図(HBC提供)」 http://www.hbc.co.jp/pro-weather/
 「週間寒気予想」 http://www1.ystenki.jp/kanki.html

 やり方までは教えてはくれなかったが、試しに、最寄りである大町観測所の積雪と最高気温データをエクセルに貼り付けてみた。積雪を記録し始めてから冷え込んで圧密が進んだところに、赤矢印の部分で急激に気温が上昇。もしここで「濡れざらめ」となれば弱層となり、それ以降の赤枠で囲まれた降雪が上載積雪となるか。
雪崩講習会 (day 1)_b0050067_0194694.jpg

 実際の状況は明日の日記に^^。ざっくりと、温度上昇までの圧密が累積積雪量の1/2であったとして、上載積雪は実積雪深の20%と推測。

 Minoringのマネをして、同様の分析を駒ノ湯でもやってみた。
 クリスマス寒波で気温が急激に下がり多くの積雪がベースとなり、Bの期間は気温は比較的高めで直射もあったと考え「しもざらめ」「濡れざらめ」により弱層が形成されている可能性がある。Cの期間には再び気温が低下し積雪があり上載積雪(圧密を考慮しなければ2m!)となっているとすれば、大きな雪崩が起きそうないや~な予感^^;。
雪崩講習会 (day 1)_b0050067_020995.jpg

 確かに、こうやって事前に分析しておくのと、そうでないとでは、現地でのカンの精度が異なる感じもしないではない^^;。

 そして、今年悲しい事故があった立山。調べようとしたら・・・立山の観測は終了しているとのこと。似たようなデータが得られないか近隣の観測所を調べるも、11月に積雪を記録している観測所はなかった。高標高地における気象データの蓄積は費用対効果が低いということなのか、切なすぎる><。

(2)過去の雪崩事故を振り返る。「雪崩学」の巻末には、過去の雪崩事故リストがある。雪崩事故が過去に起こった=これからも起こる可能性が高いので、行く山域の事例を調べるのは基本中の基本とのこと。

(3)地形図を事前に読む。1:雪崩のハイリスク角は25~35度、2:雪崩が想定される場合には、例え大変でも迂回(18度以下の斜面)、3:1人づつ通過(これは実践できてなかったなー)、4:ザックのチェスト&ウェストベルト、ストックのベルト、流れ止めを外す。簡易で細いウェストベルトは内蔵破裂の原因になるので必ず外す。クッションがしっかりしたものなら、逆にザックが浮力になるという考え方もあるとか。

(4)降雪中に雪崩が起きやすいのは、安息角で耐えているため。なので、弱層に関係なく突然発生する=降雪中&降雪直後は危険地帯には入らない方がよい。

(5)事前分析で「やばい!」と判断したら、「行く山を変える」くらいの気持ちで!

(6)いざ雪崩に巻き込まれたら、最後まであきらめない(明るい方に泳ぐ、エアポケットの確保)こと。

(7)ビーコンの基礎知識。1:初発信号は4秒数えて待つ(ノイズを拾っている可能性)、2:充電式電池は初期電圧が低いので使用を避ける、3:表示距離はあてにならない(後述)、4:機種により操作や特性が異なることを認識、5:パートナーのビーコンの電源の切り方を確認(複数埋没時のキャンセル動作)、6:シングルアンテナに慣れているなら、慣れないトリプルアンテナより良い場合も。

(8)救出後の保温・加温。1:急激に温めるのは危険で、毛布などでじんわり。2:ジップロックに小さいタオルを入れたものを携行し、万一の際にはテルモスの湯を入れると湯たんぽに。血流が心臓に戻る脇の下、首まわり、股を温める。3:加温専用のペットボトル(オレンジキャップ)も使える。

(9)特に立山など日本海側では、「黄砂」が弱層になることも考慮する。なるほど。

 昼食を摂り、午後は雪面で講習。
雪崩講習会 (day 1)_b0050067_23415127.jpg

 まずは、各自のビーコンの電波捕捉距離の確認。機種ごとに感度は異なる。直線距離と電波距離が異なるため、実測値と表示値が大きく異なることも確認。ちなみに、自分のピープス・フリーライドは水平波で実測27m、表示は40mを越えていた^^;。
雪崩講習会 (day 1)_b0050067_2343862.jpg

 次に、3mほど埋まったことを想定し、ビーコンの埋没向きによる電波特性の確認。目からうろこの発想^^。
雪崩講習会 (day 1)_b0050067_234324100.jpg

 プロービングは両靴の幅以上に動かさないことの実演。確かに、腕を捕捉するのは困難だ。
雪崩講習会 (day 1)_b0050067_23433927.jpg

 ビーコンの発信アンテナが横を向いているときは、比較的ピンポイントで特定しやすい。
雪崩講習会 (day 1)_b0050067_2344514.jpg

 が。アンテナが縦方向だとスパイクが直線上に2点表れる。埋没が深くなればなるほど、この距離は大きくなる。トリプルアンテナだと、この場合でもピンポイントに近い。ワタシのようなシングルアンテナでは、埋没2mの場合は表示が3mを切ったらピンポイント捜索に執着せず、プロービングに入った方が良いということだ。
雪崩講習会 (day 1)_b0050067_23442441.jpg

 次に、埋没者の掘り出し実習。雪の堀り方は、斜面の下からかなり手前から広く切り出していく。深ければ深いほど、より手前から。
雪崩講習会 (day 1)_b0050067_23462279.jpg

 深さ60cmに人間大のツエルトを埋め、掘り出しに4人でどれほどの労力と時間を要するか検証。実に、2分以上を要した。たったこの深さで4人がかりで2分!?2人だと倍以上の5~6分、恐らく1m埋没者を2人で掘るなら、掘り出し時間だけでタイムアウトなのだ。当然ながら、現場へ到着するまでの時間に捜索時間も加わる。生存リミットの15分がいかに短いことか。やはり、雪崩に巻き込まれてはいけないのだ。
雪崩講習会 (day 1)_b0050067_23463527.jpg

 最後に、ヒマラヤ遠征隊によるデモ。スピーディーかつ、的確な動きはさすがだなー。
雪崩講習会 (day 1)_b0050067_23465765.jpg


 そして、再びセンターに戻ってグループ討議。班ごとに意見交換するが、この時間が非常に貴重であった。印象に残っていることを。

(1)ビーコンの機種によって、捕捉距離が大きく異なること。最強はピープスDPS(高いだけあるな^^;)で実測40m強で感知。以降、あくまで傾向であるがトラッカー、マムート、オルトボックス&フリーライドと続く。高いビーコンはパートナーに渡すべし、という冗談(本気?)も^^;。

(2)アンテナ数にもよるが、実際の埋没地点とスパイクには誤差が大きいことを体感したので、ピンポイント捜索に執着し過ぎずプロービングに移った方が良いことも。人数がいるなら横並び式、1人なら中心から渦巻き状に。

(3)ビーコンが埋まっている角度により受信特性が変わることも認識。

(4)M社のプローブは「面取り」することで組み立てやすくなる。(=面取りしないと使い物にならないらしい^^;)

(5)トラッカー(ダブルアンテナ)に慣れた人がトリプルアンテナを使ったら、停止指示などに戸惑いパニックになった事例も。高い機械も良いが、自分の機械に慣れることが重要。

(6)15分がリミットとはいえ、40分後に救出されても助かった事例もある。捜索もあきらめない。

(7)スコップとプローブはザックの外に付けるのが基本。最近のザックは装着しやすく工夫されているものもある。ザックの中のどこにあるのかわからないのは論外。

(8)ビーコンは基本、下着の上に装着。上着を脱ぐときに外してしまうことがある。

(9)プローブは慣れれば木、石、地面、笹、ザック、人体を判別することも可能(明日、体験)。

(10)捜索トレーニングは「早さを競うものではなく」、「システムの理解」とその体得である。繰り返し行うことと、できれば他人に良いところ、悪いところを指摘してもらうのが良い。

(11)ビーコン、プローブ、スコップを持ってるだけなら「3種の神器」ではない。使いこなせて、初めて「神器」になる意識。

(12)6人埋まって1人残ったらどうするか。最悪なのは、全員帰らぬ人になること。できる範囲で救助を試み(すぐに見つかることもある)、無理と判断したら執着せずに「生きて帰り、伝えること」が義務である。

(13)多人数パーティなら50L以上ザックも携行すると、万一の際にいろいろと使える。足を突っ込んだり、遭難者の荷物を詰め込んだり、背負い搬送に使ったり、搬送時のクッションに使ったり。

(14)薄い銀マットを体サイズに切って各自携行する。ビバーク時だけでなく、搬出の際に下に敷いたり、骨折したときに束ねて副木代わりにもなる。

 などなど。うーん、勉強になるなー。

 夕食を兼ねて、山ヤに欠かせないお酒を交えて懇親会^^。久しぶりに再会する山ヤがいれば、新たな山ヤの輪もさらに広まり、おいしいお酒の差し入れもいっぱいで、やっぱり飲み過ぎてしまう^^;。しかしながら、明朝は早いので23時にはバタンQ。おやすみなんしょ。

 【つづく】
by kanechins | 2011-01-22 23:28 | 「山」の独り言