山ヤ失格な八ヶ岳 day2

 2013年 3月 3日(日)
 「雪山のテント泊で、シュラフカバーってホントに必要なの?」
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 実は、ずっこそんな疑念があった。冬のアルパインでギアが多いときはツェルト泊なので「シュラフカバー」は必須であったが、「テント泊ではなくてもいいんじゃね?カバーって意外に重くて嵩張るんだよね」という気持ちもあったので、身をもって体感できることに。

 ・・・ 「んあぁ~、さぶい!」。ふと目覚めて時計を見たら、まだ21:50。少し身体を動かすと、冷たい粉が顔に舞った。シュラフ表面は身体から出た汗が凍り付いて結晶となり、青い寝袋は白く染まっていた。ワタシの冬用寝袋は、14年前に買った代物。「重い、デカい、寒い」と三拍子揃った、年季が入ったヤツだ。

 はて、実に寒い。寝袋の口を閉めて鼻だけ出していたら、鼻先が凍傷になるかと思うほどの冷え込み。後で調べると、野辺山測候所(標高1,350m)の最低気温は-14.3℃。すると、行者(2,350m)の推定気温は-20.3℃になる。そりゃ、寒いわけだ。

 人間、あまりに寒いとホントに眠れない。特に、冷え切った下半身の凍えがハンパない。ぷるぷる痙攣し出し、太もも以下が猛烈に痛い。そういえば、雪崩講習のとき「低体温症を回避するには鼠蹊(そけい)部を温めれば良い」と教わったな。ホッカイロを股の間に挟む。しかし、一向に下半身の冷えは止まらない。

 全く寝付けないまま23時、0時と時間が過ぎていく。「早く朝よ、来い!」と思ったのは久し振りだな。しかし、カバーがないとこんなにも寒いのか!?確かに、カバーと寝袋の間のデッドエア(動かない空気層)は重要だし、寝袋に霜が付く=寝袋表面は0℃以下ということだ。カバーがあれば、少なくとも寝袋表面がそんな低温に晒されることはないだろう。結論、シュラフカバーは温かい、きっと。

 それでも、午前3時が近づくと温かさを感じるようになり、やっとウトウトしはじめた。

 午前04:20。携帯の目覚ましで起きる。外は満天の星空。sonoに「朝だよ、起きるかー」と声を掛ける。「あいー」と応えたのを聞いたあと、記憶がない。身体は冷え切ったままだし、寝不足で眠かったし、温まってきた寝袋から出るのは本当に億劫であった。

 ・・・。「ん?やけに明るいぞ!?」。時計を見たら午前05:45!?「や、やばっ!」、慌てて起きるも、周りのテントからは既に準備が終わって山に向かう人たちばかり。完全に出遅れた。さすがに水や靴、手袋、ガス缶は保温に努めていたが、持ってきたパンは失念して全てのパンが完全凍結。「チーズ蒸しパン」は凍らないものと思っていたが、ガッチガチに凍結。自分のアホさ加減に辟易。

 急いでお湯を沸かし朝食を摂る。トイレ済ませたり、ギアやロープを準備しアイゼンを履いたら午前07:15、ちーん。ベースで泊まった意味ないし。
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 それでも、折角だからと中山尾根へ向かう。中山コルを右折し樹林帯へ。
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 先行ラッセルがあったので、登りはラク。凍えた体をゆったり動かし、下部岩壁基部まで40分程度で到着。今日の中山さんはモッテモテで、2人-3人-3人-2人組みで行列が。
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 ハーネス、ギアを装着して、手前の広い場所でアンザイレン。本来のルートは右側に一旦下ってルンゼを行くようだが、氷で埋まっているのか、皆んなペツルが打ってある、難しいと言われる正面から取り付いている。
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 陽の当たらない雪稜で1時間ほど待機し、上手な2人パーティも終了点へ。時間は9時を回った。山ヤとは言えない数々の失態に加え、体調不良。つい先週、一つ隣の尾根で起こった事故も頭をよぎる。気持ちの中では、既に敗退ムードが漂っていた。アイゼントレも今年はやっていないから、怖さも倍増。気分が乗っていないときに登れるほどアルパインは甘くはない。

 ボルトを越えてもう一歩上がるところで、どうにも突っ込めない。「気持ちの問題」であることは自分はよくわかっていた。「ここならまだ回収できる」という気持ちが身体にブレーキを掛けていた。そして、sonoはそんな状況を承知していたと思う。

 「わたし、代わるわ」、09:40にsonoと交替。ペツルにロープを掛けた場所から、急に悪くなる。甘い出っ張りの窪みは氷で埋まり、ピックで割ってはがしていく。苦闘の末に直上は諦め、根性で右上した。ルート取りはそっちが自然だが、なぜあんなところにペツルが打ってあるのか不思議。
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 慎重にルンゼを上がり、終了点へ。続いてフォローに入る。右側から上がるとそれほどでもないが、ボルトからかなり離れるので刃物を付けてのリードは怖いな。終了点に到着すると10:45、決断のときだ。

 時間が遅いことと、体調不良(寝不足、肢の不調、靴擦れ)。今のピッチが「Ⅲ+」で、未知の上部核心は「Ⅳ+」。先行は4パーティ。ここなら懸垂下降で撤退できるが、ここを越えた瞬間から上に抜けるしかなくなること。冬期の地蔵下降は随分前に行ったきりで、暗くなったときの下降に不安。先週の事故。この寒波&仕事状況ではビバークはありえないこと。

 これら負の事項と「天候は最高のコンディション」+「まぁ、多分、ダイジョウブでしょ」という気持ちを天秤に掛けた場合、かなり釣り合うところではあったのだが、こんなナメた状況では何かが起こりそうな気もして、結論は「撤退」。「山で『敗北』という言葉を使うな」という意見も聞くが、どう考えても「敗北」だ。ただし、八ヶ岳にではなく、自分に対して。ぼろっぼろだ。あまりにひどくて、ここまで来ての「恥ずかしさ」と「悔しさ」で危うく涙がこぼれそうだった。
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 「まぁ、でもこれでおあいこ」というsonoの言葉に救われ、周りを見渡す。そこには、風もなく太陽の光が照らし出す、美しき八ヶ岳の原風景が。それまで「もう、ヤマハヤメルカナ」と思っていた気持ちも氷解し、きっと、またちゃんと準備して来るんだと思う。
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 そうと決まれば、下降の準備。あばよ。
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 風も穏やかで、強烈な陽射しで暑いくらい。折角だからと、お決まりのチャイを淹れて、白銀の世界をじんわり楽しむ。隣りの学生さんたちは、賑やかに談笑。うん、やっぱり山はいいな。
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 真っ白だった赤岳も、この陽射しではベールを脱がされざるを得ないようだ。
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 また、きっと来るよ。今度は中山さんに失礼のないよう、十分に準備して。
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 テントを撤収し、ちゃっちゃと下る。随分と山から離れていたせいか、久し振りに足腰に来たな。「もみの湯」で汗を流し帰路へ。

 sonoが「辛いものを食べたい」と言うので、下氷鉋にある台湾料理「鮮味館」へ。ワタシはボリューム満点の「回鍋肉定食」(880円)を。お、これはなかなか、それっぽい味!と思ったら、本場シェフらしい。
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 sonoは「麻辣麺」。ワタシも「赤ペヤングくらいならへっちゃら」くらい辛いの大好き人間なのだが、コイツは洒落にならないくらい辛い!自分だったら食べきれてないな。完食したsonoに拍手。
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 と、まぁ実に「お恥ずかしい話」ではあったけれど、振り返れば、こうやって色々学べるのも「山のいいとこ」なのかもしれない。「やっぱり、山はいいな」と思えたし、行ってよかった。またいつか、しっかり準備を調え行きたいと思う。
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by kanechins | 2013-03-03 00:41 | 「アルパイン」の独り言 | Comments(2)
Commented by namaste at 2013-03-15 23:28 x
kanechinsさん、たいへんご無沙汰してました。

まぁ敗退・撤退にそもそも勇気なんて必要ないですからね。
冷静な判断を下したことに誇りを持ちましょうよ。

どんなに情けなくとも、おかげで僕もまだ生きてます。
だから信州で百姓をはじめられたとも言えます。

今ではすっかり山どころでなくなりましたが、
それでも2月の石尊稜遭難が関係者だったりすると、
僕はたぶん生涯山から足を洗えませんな・・・。

ところで本日(3/15)、FM長野であの「ぶらいあん」さんが
取材を受けてました。今は松本で自営業を始められたとの由。

直接お逢いしたことはないけれど、飯田滞在時代の
kanechinsさんの当ブログで頻繁に登場してた方だったから、
親近感が湧いてつい自分の仲間のような錯覚に陥って、
市田柿の剪定をしながら懐かしい思いでラジオに
聞き入ってしまい、思わずコメントさせていただきました。

このブログにはそんなファンもいるってことで、
ぜひ臆病なくらいに何度でも山を楽しまれてください。
決して行き(生き?)急がないようにね。

Commented by kanechins at 2013-03-19 06:54
★namasteさま
ご無沙汰しております。namasteさんのブログは時折訪問させていただいており、南信で奮闘されていらっしゃる様子を拝読しております。

ほんと、撤退には勇気は要りませんね。恥ずかしさや悔しさなんて、現実に事故を起こすリスクを考えれば、ちっちゃなものですよね。

2月の石尊はお知り合いの方でしたか。。。その週末からこの週末にかけて強烈な寒気団が襲ってきていたので、周りでサポートされていた方々も相当に過酷な状況であったとお察ししております。ご冥福をお祈りします。

ぶらいあん!詳細まで伺ってませんが、以前から自営業をはじめるとは聞いてはいましたので、いよいよって感じですね!久し振りに連絡を取ってみたいと思います。ありがとうございます!

ほんと、いつもご訪問、ありがとうございます。最近は忙しさにかまけて更新が進んでおりませんが、またちょこちょこと頑張って続けたいと思います。

これからも安全を考えつつ、山と向き合って生きたいと思います。どうぞ、今後ともよろしくお願いします。いつかお会いできる日が来ますように。


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