前穂高岳・東壁(北壁~Aフェース) day2 前編

 深夜。雷のような落石の音で何度か覚醒され、途中から眠れなくなってしまった。「思ったよりも落石って多いんだな、C沢、ダイジョウブかな?」。時折、ポツポツとテントを雨が叩く。

 C沢といえば、漫画「岳」第4巻で出てくるあれだ。設定では5・6のコルから下っているようなので「本谷」かと思われるが、漫画にもあるとおり落石が多い。「落石注意」って、いくら注意しても仕方がない。結局は「スピーディーな行動」だけがリスクを減らすようだ、って、まじ?

 そんなことを考えてると、枕もとの横で足音が!気のせいではない、何かが歩いている、しかもそれはクマとかでなく人間。深夜の2時、丑三つ時。亡くなった方も少なく無い奥又。もしかして。まるで何かを探すかのように歩き回る足音には、真剣にびびった。


 しばらくして、シャッター音が聞こえた。あ~、なんだ。隣のテントの人はカメラマンか?安心してテントの換気穴から外を覗くと、満月の光に照らされる奥又池と前穂東壁が輝いていた、怖いくらいに美しい。

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 2011年 8月14日(日)
 午前4時起床。この時期のアルプスは、さすがに冷え込む。冷えたコンビニおにぎりはボロボロと崩れて食べ辛い。M谷さんらも朝食の準備を始めたようだ。テントを撤収してパッキング。水を吸ったテントが、しっとりと重い。

 昨晩の雨で一面、びっしょり。露払いに合羽を装着。05:15、予定より少し遅れて出発。お互い、気をつけて!
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 これが奥又白の概念図。
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 本谷周りで行くことに。踏み跡に確信があるので、自信をもってどんどん進めるのは大きい。やはり、偵察は重要だ。A沢も無事に渡り、これから登るルートを見上げる。この荷物で、ほんとにあれを登るのか??
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 本谷への下降はちょっとシビア。岩雪崩を起こした場合を想定して、sonoとかなり距離を空けて浮石地獄の本谷を詰める。わかりづらいが、左のルンゼ(谷)がB沢、右がC沢だ。
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 6本爪アイゼンを装着し、ピッケルを取り出して静かに雪渓を登り始める。
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 いよいよ、C沢入口に到着。シュルンドは奥が見えないくらい深く、落ちたらタイヘンだ。雪渓も雪庇状になっている部分をうまく回避し、C沢に降り立つことができた。
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 C沢入口。右奥に巨大なチョックストーン(ロック?)が望める。
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 入口は柱状節理の門。もろくて、いつ崩れてもおかしくない。そして、いよいよC沢へ。引き返すのなら、今しかない。
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 ここからは、沢登りの世界。沢をやっているせいか、ライン取りにはそれほど悩まなかった。こんなところでも役立つんだな。すぐに巨大チョックストーンへ。右側から巻くが、これまたボロボロっ。動く石を押さえ込みながらカラダを上げていく。大岩を越えたら越えたで、今度はザレザレ地獄。ホールドもスタンスも砂利が乗って悪い。ここのところ、誰も通っていないことがわかる。
 
 写真は大岩を越えたところ。見えてる岩は全て浮いていて動きまくり。対岸も風化してぼろぼろ。誤って堕ちれば10数mはいってしまう。ロープを出せば岩が動いてフォローに落ちるキケンもある。絶対に堕ちてはいけないところを堕ちない技術が必要だし、お互いにダイジョウブと信じていないと厳しい。
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 中途半端に雪渓が残っているのも厄介。急なうえに分断されているので、下手に雪渓に上がるのもキケンと判断し、下をくぐる。しかし、このブリッジもいつかは崩壊する。やはり、スピーディな行動しかキケンを回避できない。
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 7月だと雪渓がつながっており、雪渓上をすたすた登ればよいみたい。どうりで、8月に入山した記録があまり見つからなかったワケだ。
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 ところどころ、雪渓が切れている場所は滝が出ている。堅ければまだよいのだが、ボロボロなのでこれまた悪く、ロープを出したりして時間を食う。
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 雪渓の上を歩いて来られたら、どんだけラクだったろう。やはり、来るなら7月が正解か?
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 B沢の最後は雪渓が切れ、15m超の大きな滝が。右岸(左側)がインゼル(B沢とC沢の間の小尾根)になっているが、強引に上がったとしてもB沢側がどうなっているのかわからない。そこで、左岸(右側)から高巻くことに。

 最初は階段状で弱点を登っていくが、滝は次第に立ってきてびびる。ここで堕ちれば10数mの落下ののち、雪渓をざーっと何十mも堕ちていくことだろう。なんとか滝の上部に出て、インゼルに上がるルートを探索。写真ではよくわからないが、sonoのすぐ後ろは絶壁となっている。
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 3・4のコルへ続くC沢を渡るsono。ここも落石キケン地帯だ。ここを登れば、北尾根にエスケープすることも可能だ。
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 インゼルに上がり、B沢への偵察に。雪渓上部の岩もボロボロで、人間大の岩でさえ浮いている状況。雪渓末端を慎重にトラバースし、B沢へ。悪そうだ。ここで決断が求められる。北尾根に逃げるか、突っ込むか。ここまで苦労して上がってきたのだし、天気も上々だ。行こう、慎重に。sonoにゴーサイン。

 このインゼル、早く登りすぎればB沢側があまりに急で降りれない。かといって、上部に登りすぎても同様だ。インゼルの傾斜が緩み、ちょっと広くなっている場所でトラバースすればよさそうだ。

 写真ではそれほどでもないが、ザレザレの下降はすごくシビアだった。この雪渓ははるーか下まで急斜面となってその先は消えている。堕ちればB沢の藻屑と消えるのだ。
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 不気味に口をあけ、喉からはゴーっと不気味な音が聞こえてくる。ボロボロの沢をなんとか渡渉し、いよいよB沢へ。さぁ、もう戻れないぞ、行くしかない。
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 B沢こそ、まさにキケン地帯。前穂方面からの落石が、全て集まってくるのだ。傾斜はますます急になり、浮き石の量もハンパじゃない。
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 B沢上部は、また中途半端な雪渓が残っている。両側はぼろぼろで登れず、雪渓をくぐるもののザックが邪魔で進めない。ザックを手でぐいぐい押し上げながらブリッジ内を登る始末。ほんとにもう、おなか一杯だ。
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 そして、右岩稜に到達。そこを過ぎれば、トポ(登攀図)にもある北壁が望めた!
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 09:30。ここまでで、既に4時間を消費している。滑落が許されないシビアな登りが続き、フィジカル面はもちろん、メンタル面でもかなり消耗している。ここからが本番というのに、ダイジョウブか!いや、もはや引き返すことは不可能。行くしかないのだ。 (続く)
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by kanechins | 2011-08-14 21:02 | 「アルパイン」の独り言 | Comments(0)


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